入試問題集2022|多摩美術大学
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15[教員コメント]油彩は、まず不可思議な光景の作品だ。淡いブルーの背景に煙をたなびかせる蚊取線香がある。燃え移る危険性? 絵画だから安心? 色面の構成は抽象的で知的だ。垂直の濃いブルーと白いカーテンの対比が効果的だ。平凡な窓辺の光景だが妙なシュールさを帯びており、明快なビジョンによって出題に答えている。この単純な画面で伝達する力量は秀逸だ。デッサンは、同様に実際に見えているカーテンを素朴に捉えている。右端下部がややせり上がり、ある心理的な不安定さを画面に帯びさせる。油彩の前日のデッサンが、油彩において表現される世界を既に先取りしているのは、作者の一貫した資質の証しである。 [教員コメント]デッサンの問題にある「今ここで見えているもの」とはなんだろうか。写真のように目の前の世界をすべて写し取ることだろうか。人間の場合、何かを見ることは他のものを見ないことを含んでいる。この絵のようにあちらを見るときはこちらはまるで存在しないかのように姿を消すのである。そんなことを考えさせるデッサンだ。油彩は色面の強さと木炭の繊細さ、具象と抽象を同時につなげたよい作品だ。抽象的な画面の中に木炭で描かれた人物が浮かぶが、この人物は大気中のケムリのように消えていくのであろうか。シンプルだがそういった物語も感じさせる奥深い作品に仕上がっている。 ※デッサン、油彩は同一作者の作品を掲載しています。(文責=中村一美教授)(文責=菊地武彦教授)

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