入試問題集2022|多摩美術大学
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19[教員コメント]凡庸な風景のようで、ただならぬ気配を纏う絵だ。遠景の空と山、湖面は水鏡となり、バスケット周辺に人影はない。シンメトリーな構図と捧げられた果物は、祭壇のようでもある。潔い筆跡の描き分けにより明快に「距離」が表現され、又、慎ましく見え隠れする下地の色が作者の思慮深さを物語っている。一方、デッサンにおいては、黒くトリミングされたカルトンと人物が右画面に比重を置き、カーテン越しの柔らかな光がアトリエ壁面にデリケートな影を描く。人のディテールは省略され、意識的なモノクロームのコントラストが、室内の空気を巧みに表している。 [教員コメント]油彩作品では黄色い色面にコマ送りのように描かれた人物がとても印象深く、この画面から感じられる躍動感、動きを見ていると、思わず「同時性」「距離」「つながり」といった言葉を連想した。見る者の視線を手前から奥に、奥から手前へと動かしながら、同時に色彩そのものの魅力、人物表現を含む絵画そのものの魅力を強く感じさせてくれる作品だった。デッサンの方では、視界に入った受験生だろうか、あるいはまさに今、試験に挑んでいる自分自身であろうか、鉛筆を持ったその眼差しは鋭く、この場の緊張感がとても真■に伝わってくる作品であった。ぜひここから一層、さまざまな「見る力」を鍛えていってほしい。 (文責=村瀬恭子教授)(文責=日高理恵子教授)

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