入試問題集2022|多摩美術大学
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 光は右上から来ており、光たくのある長細いコップの右側を明るく見せている。左側全体は影側となっており、コップを挟むことで大きな空間を見せている。また、薄い白い紙のうち一枚は新聞の上に二重になって置かれている。一見ペラペラしているように見えるが、二重になるとより白くなり、下にある新聞の文字が見えにくくなっている。一方で、白い紙がただ重ならずに置かれている部分の新聞は、文字が前者よりもよく見える。 左側の新聞に挟まれたコップは、置かれている長細いコップよりも短い。絵の中では、新聞がなだらかに下がっていることで、隠れているコップが少し短めであることが分かる。また、二つあるコップは重なる。これは、絵の中で置かれているコップの下面の長さと、横たわり新聞に挟まっているコップの入口の長さが同じことから分かる。 この絵の中には、三つの影がある。一つ目は、長細くひっくりかえっているコップが白い紙と新聞に落とす影である。二つ目は、新聞が落とす影である。新聞は何枚も重なっていてある程度の重さがある。そのため絵の中では一番黒く暗い影として描かれている。三つ目は、横たわっているコップが落とす影である。プラスチック製で透けているコップは、影側にも光を細長く落としている。 長細いコップに入れられた、白い紙を丸めたものは、平面的な新聞や紙に対して、動きのあるものとして置かれている。 机上にあるのは四種のモチーフ。床に敷かれた新聞紙と、その上に横たえられた大きい透明なコップ、それを覆うように組まれた紙と、丸めた新聞紙の入った小さい透明コップだ。 モチーフのコップは前の席が透けて見えるほど混じり気のない透明で、文字が読めるほど新聞紙が透けている。透明だからか、床に落ちる影も厚みによって様々な変化を起こし、反射した光が落ちているところもある。 今回のモチーフには空間が作られるところが多い。大きいコップと紙の間では組まれ方によって影となる空間が生まれている。二つ折りにされた紙も同様だ。紙のやわらかさによって折られた先から空間となっている。薄い紙が重なったものなので、うっすらと光を通して影が生まれている。また紙は薄いものの、固さがあるので、床や新聞紙に接しているところにはより細かく変化する影が見える。 また光の当たり方に注目すると、コップと紙では反射や影、立体のつき方に差があることがわかる。コップは凹凸部分にある影に対応して細いきらりとした光が入り、光を通してしまうからか影にも複雑な光が見える。対して紙には光沢感があり、周囲の新聞紙の鈍さと比べても反射した部分は際立って明るく見える。影に光が透けるという点では似ているようにも思えるが、紙はコップよりも鈍く、落ち着いた光が見える。81[教員コメント]新聞紙の束と透けた半紙という質感の異なる二種類の紙、大小のプラスチックのコップという素材は、構図が作りにくいが、まとめあげている。コップの中に丸めた紙を入れることでコップの硬質な透明感を演出するとともに、半紙の透け感によって新聞の見出しが判読できるすれすれのところまで見えている。[教員コメント]半紙の透け感の表現はないが、倒れたコップに当たった強い光が新聞と机に大きな円を描いて反射しているようすや、丸めた新聞紙の入ったプラスチックのコップでクリアに透けて見えている文字が、コップの横線で透け感が乱れるなど観察が細かい。「神奈川新聞」の「神」だけ見えるようにしたのも興味深い。鉛筆デッサン[言葉によるデッサンを含む]

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