入試問題集2022|多摩美術大学
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― 野田秀樹『宇宙蒸発』より抜粋流りゅう暢ちょうな江戸弁を喋ることができたか? ― 野田秀樹『彗星の使者』より抜粋91 の手を離し、流れていった白い夜に光り輝く、十二の宝石をなげうってでも、うるう十二月、君の手に命の双曲線、空をとぶブーメランを取り戻そう。走りぬけた琵琶湖の霧が笑いはじめる頃、僕は、五本の指の谷間に四本の指を流しこんで、祈りの鋳い型がたをつくると残った小指で、永く永く君を思おう。 トカゲ トカゲ トブ・ソーヤ 後からちりとり星が追っかけて、古い顔を拾っては、ダスターシュートに投げ入れる。ほうき星のダスターシュート。トカゲ トブ・ソーヤ 彗星の尾っぽのことさ。ろうそく一本、まっくろのくろ。酸素の足りないダスターシュート。ケンコーコツから血のでたシアンのしどころ、ろくろの中……て、書いてあるんだ。え?トカゲ トブ・ソーヤ ダレダロウ? 誰が一体こんないトカゲ トブ・ソーヤ 八月二十一日、彗星の顔は、突然フカの顔をしていた。二十二日、二十三日、二十四日、二十五日、二十六日、古代ハチュウ類、ハッテリアにそっくりだ。それは、お前が書いたのか?トカゲ トブ・ソーヤ やつさ。八月二十八日。トカゲ トブ・ソーヤ 見たいテレビがあった。え?トカゲ トブ・ソーヤ まるで、僕が書いたみたいだ。二十八日、獅し子し頭がしらの巨大な鼻づらをしている。八月三十一日。二十九日も見たいテレビか。トカゲ トブ・ソーヤ そうだ。トカゲ トブ・ソーヤ 連続ものだった。八月三十一日、望遠鏡の奥深く覗いてオドロイた、そこに見えた彗星の顔ときたら……。どうした。どんな顔なんだ、トブ君。トカゲ トブ・ソーヤ いわない。トカゲ トブ・ソーヤ いわない。トカゲ トブ・ソーヤ いわないったらいわない。トカゲ トブ・ソーヤ いわん。いわなくてもいいからいえ。トカゲ トブ・ソーヤ いってもいいからいわない。トカゲ トブ・ソーヤ そうなんだ。トカゲ トブ・ソーヤ 四十日目の奥深くはりついていた彗星の顔、それはとんでもない僕の顔にすり変っていた。著作権保護のため掲載を控えております著作権保護のため掲載を控えておりますこのことに気づいてから、トカゲにとって世界が、ガゼン意味あるものに変った。近所の中華料理屋に入るたび、メシ食うやつらの瞳を見ては、とんだ野郎か、とんでもない野郎か、見分けようとするんだ。やがて、じいっと見ているうちに……。トブ・ソーヤ わかるのか。トカゲ トブ・ソーヤ 失礼します。トカゲ トブ・ソーヤ 三時間目は算数だ。トカゲ トブ・ソーヤ 分数は、分母と分子の母子家庭だ。父がいない。分数の父は、どこへ行ったのだろう。なんだい、それ。トカゲ トブ・ソーヤ 夏休みの宿題帳。 トカゲ トブ・ソーヤ こんなに面白いものを、他人にやトカゲ トブ・ソーヤ え? やりたくないのか。トカゲ トブ・ソーヤ え? トカゲ トブ・ソーヤ なんだいそれ。トカゲ トブ・ソーヤ なんなら、トカゲ。トカゲ トブ・ソーヤ とりかえてやってもいいんだぜ。そうか。(と、宿題帳ととりかえる)トカゲ トブ・ソーヤ (覗いた双眼万華鏡)なんだ、こトブ・ソーヤ かえせ! かえせ! かえせ!トカゲ トブ・ソーヤ (ふりむく)え? ……かえせ!トカゲ トブ・ソーヤ 夏休みの宿題帳だ。トカゲ トブ・ソーヤ だから困る。世間の目にさらされトカゲ トブ・ソーヤ 待ったなし!トカゲ トブ・ソーヤ うん?トカゲ トブ・ソーヤ トカゲのくせにナマいうな。トカゲ トブ・ソーヤ ああん?トカゲ トブ・ソーヤ 江戸っ子?トカゲ 試験場において配布した課題 [4]そして五月のエメラルド、真夏の星降る夜千ちいお五百の秋かさね、レンタンに手を当てる冬を越え、この誕生石、永と遠わのボートにのせ、昼も夜もわかつことなく、瀬せ田たのからはし漕ぎぬけて、オールそろえて、沖へ参ろう。世界の四ツ角にむけ、僕の体、四ツに切り裂いても、じいっとしたままの石炭のおののきを、そっととりのぞき、永遠の君試験場において配布した課題 [5]トカゲ トブ・ソーヤ 君は誰?トカゲ トブ・ソーヤ あっ、そう。トカゲ トブ・ソーヤ 他になにか?トカゲ トブ・ソーヤ トカゲだろ。トカゲ トブ・ソーヤ 現代の世界には、いろいろな民族がいて、いろいろなことが起こっています。三時間目みたいなやつだな。石の上にも三年、石の下で三十億年。僕はトカゲです。…………。驚かないのか。二本足のトカゲだぞ。え?見せて。らせるわけにはいかない。あっ、そう。(なにかのぞいて)あっ、おもしろい。ワハハ愉快だな。双眼万華鏡。美しさがあふれている、気が狂いそうだ。ワッハッハのワッハッハ。うん?れっ!!サッとばかりトカゲ、穴の中へ逃げこむ。追ってトブ・ソーヤ、つっこもうとするが、 入りきれずジタバタ。そこへユーユーと再び、トカゲが出てくる。どうした少年。北方領土か。しかもたいそう、できの悪い。ては。(とトカゲにとびかかる) 待った。将棋の沙さ汰たではないな。オレは盗みをするようなトカゲではない。差別語にはタエヨウ、けれども宿題帳を盗んだ顔は、この顔であったか?もっと別の顔をしたトカゲではなかったか?江戸っ子だと言っていたか。おう、おらあ、江戸っ子のトカゲだ。バカ言ってんじゃねえよう……てトブ・ソーヤ トカゲの顔なんか皆な同じだ。ランボーなこと言うな、ヴェルレーヌ。トカゲ トブ・ソーヤ 僕は詩人じゃない。日本のトム・トカゲ トブ・ソーヤ よくきけ。トカゲ トブ・ソーヤ トブ0・ソーヤ。一字違いのニセモノだ。「美空ひばり来たる!」と思って、よくよく見ると、「美空い0ばり」だったりする地方公民館の看板の世界さ。トブ……。トカゲ トブ・ソーヤ ああ。トカゲ トブ・ソーヤ うん!トカゲ トブ・ソーヤ とんでもない野郎とも言われる。トカゲ トブ・ソーヤ なんだ?トカゲ トブ・ソーヤ うん。トカゲ トブ・ソーヤ 同じだよ。トカゲ トブ・ソーヤ うん。トカゲ トブ・ソーヤ やっぱり同じだ。トカゲ トブ・ソーヤ なるほど。トカゲ トブ・ソーヤ 何してる?トカゲ トブ・ソーヤ え?トカゲ トブ・ソーヤ 足音はどこへいっちまうんだ。トカゲ トブ・ソーヤ え?トカゲ トブ・ソーヤ …………。トカゲ トブ・ソーヤ 疑いながら感謝する。あーっ!トカゲ トブ・ソーヤ 勝手に書きこんだな。トカゲ トブ・ソーヤ …………。トカゲ トブ・ソーヤ とは思いつつも。トカゲ、何かをしている。ソーヤだ。トム・ソーヤ?うん?ひょっとするとトブ!とんだ野郎だな。ちぎゃあう。(聞きくらべて)とんだ野郎。とんでもない野郎。よく聞け、とんだ野郎。とんでもない野郎。ちぎゃあう! とんだ野郎は、とんだから飛んだやつら。とんでもない野郎は飛べるくせに飛ばないから、飛んだことのないやつらだ。ラーメンがのびている。とんだ野郎には足音がないんだ。滑走する大地から足音が消えた時が空へ舞いあがる時さ。ほら。盗んだトカゲからとりかえしてきてやった。(宿題帳を渡す)ここは、礼を言うのが人の道ではないか?どうした?ひどいことをするトカゲがいたもんだ。オレではない。どうせいつも八月三十日ごろに慌ててやるくせに。トブ・ソーヤ 今年は違う……。トカゲ トブ・ソーヤ 違うつもりだったのに……。トカゲ トブ・ソーヤ 今年の星空は、とくべつなんだ。トカゲ トブ・ソーヤ 彗星には顔がある。トカゲ トブ・ソーヤ 彗星と女の顔は、日一日と変わる。そのたびに顔をほうきの先ではきすてる。新しい顔で彗星はこちらへむかってくる。その顔を一日ずつ、今年こそ、観測しようと思っていたんだ。古くなったほうき星の顔はどうするんだ?阪神タイガースもそう言ってる。阪神タイガースもやがてそう言う。どうして。え?たずらを書き足したんだ。どこまでがお前の言葉で、どこからがやつのことばなんだ?二十七日はどうした。三十日は。いえよ。いえったらいえ。いえ。まるで逆らう鏡だな。え?

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