19[教員コメント]デッサンの対象は目の前の受験生だろうか、その彼も同じく身体を描いている。その状況をムービングとして捉え、身体そのものというよりも、空間、時間をも含めた身体の在りようを描いている。木炭の色も魅力的だ。油彩は、「あの時、あの瞬間」と言えばいいのだろうか、多分電車の中だろう、西日が差し込んで向かいの人の足元をビビットに浮かび上がらせる。床に落ちた人のシルエットは自分の影だろうか、見えるはずもない顔も浮かび上がる。そう、見つめるほどにいろいろな想像が掻き立てられる。静かな表現の中に見る側と記憶の交信が起きている。入試においても心揺さぶられる作品との出会いはうれしい。 [教員コメント]油彩には課題文にある「明け方の鳥」が描かれている。光を浴びて羽ばたく鳥や木々の鋭い枝や影。この鳥と木々を俯瞰してのぞむユニークな反復の構図は不思議な浮遊感を生んでいるが、それはデッサンに描かれた手にも共通している。力強い筆圧で描かれた厚みを感じる2つの大きな手のひらは、手首や腕を描くことなく、まるで宙空に浮いているかのようだ。だが、よく見るとその周りには握りしめた小さな手がいくつも描かれている。その重なりから「身体を見て描く」というテーマとその時間そのものが、1枚の紙に残されたのだということがわかる。 (文責=小泉俊己教授)(文責=石田尚志教授)
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