入試問題集2023|多摩美術大学
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 画面上には、白い縄1本とレモン1個とバブルラップ1枚が構成されている。バブルラップは中央を縄で2周させて結び、結び目から余った縄は一方を手前へ、もう一方は一度バブルラップの後ろを通って左奥から手前へ伸びてきている。レモンはバブルラップの結び目に対して左側に置かれ、上からはバブルラップの片面が覆い被さっている。 画面上で、光は主に中央からやや右にずれた位置から差し込み、構成されたモチーフはおよそ真下から左へ多様な影を落としている。まずレモンは、この画面の中で最も濃い影をつくっている。これは、レモンがこの中で最も固有色が濃く光を通さない物だからだ。また、次に濃い影は縄によるものである。縄は白く、レモンの鮮やかな黄色と比べるとコントラストもそれほど強くないが、それでも光を通す素材ではないため、机と接する部分にはかなり暗い影ができる。縄自体は、床やバブルラップの反射光を受けているためほぼ白い。バブルラップは画面の中で最も薄く繊細な影をつくっている。光源に近い右側は全体的に白っぽく、ハイライトがたっぷり連続している。そして結び目に対して左側は、結び目や伸びた縄、レモンやバブルラップ自体の影などができる。また、バブルラップは半透明でたくさん空気の入った穴があるため、それに覆われたレモンの像はぼやけている。バブルラップは結び目から離れるにつれ広がり、ふんわりとしつつも元に戻る力があることがわかる。 机上には3つのモチーフがある。一つは折りたたまれたプチプチの緩衝材、それからレモン、そして最後に小指より少し細いくらいの白いロープだ。2回折りたたまれた緩衝材の上にレモンが置かれている。それより手前側にゆるく結んであるロープがある。光源は左奥の上方にあるため、それぞれから机の上に伸びる影はこちら側に、ところによってはモノの真下にしか見えない程、ひそやかに存在している。 緩衝材はビニールでできているため、光を反射している。しかしながらプチプチの一つ一つ、そして層になって重なった部分や折り目などがそれぞれ光を受けて、それぞれで反射をしているため、表面はまるで乱反射しているかのような複雑な影と光の表情がみられる。 ロープはシルクのような白さがある。それ故に光が直接あたっている部分は糸一本一本がその白さで光を反射していて、とても美しい。一方でレモンの真下の緩衝材部分では、レモンの黄色い光をはねかえしているため、影の暗さの中にあざやかなイエローが混ざっている。緩衝材自体は透明な筈であるのに、先程述べた乱反射のような複雑な光のコントラストとレモンのイエローがあいまって様々な表情の色を持っていることもまた美しい。 緩衝材はシワもできているが、レモンと机には距離があり浮いているのは面白い。83[教員コメント]緩衝材の裏表を巧く描き分けており、素材に応じた影の濃淡もよいです。レモンを半分隠すことで緩衝材の透明感を表しています。紐の先のほつれや繊維のねじれの描写もあります。文章では、紐の結び目の力に反して緩衝材が広がろうとする動きやレモンの色にも言及しており、丁寧な観察と繊細な感性が見て取れました。[教員コメント]折りたたまれた緩衝材の上に重しのように載せられたレモンと結ばれたままの紐。シンプルな構図で素描も大胆ですが、文章がとても良いです。机から浮いているようなレモン、緩衝材の凹凸それぞれが放つ光の反射、レモンの落とした影に混じり込んだ淡いレモンイエローなどを描きたかった気持ちが伝わってきました。鉛筆デッサン[言葉によるデッサンを含む]

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