68[教員コメント]果実の構造を思わせる球体。その殻の複雑な構造がうまく描かれており、あたかも記憶がいくつもの層で出来ているようである。殻の表面の描写や陰影の付け方がうまく、奥行きを感じさせる佳作である。[教員コメント]例えば何かの印象的な出来事の際に写真を撮影し、それをアルバムに収める。それは外部記憶として機能するようになる。私たちは体験した全てのことを記憶できない。しかしそうでなければ全ての情報が飽和し、意味を見出せなくなる。だからその取捨選択と忘却が、そもそも私たちの意識を形作っているのだと思う。[教員コメント]ロジャー・ディーンのイラストを思わせるような構図だが、その質感はソフトなようでもあり、テクスチャーは顔のようなものでもある。まるで宇宙空間に漂っているような、多数の記憶のかけらの流動性が、ソフトなタッチで良く表現されている。[教員コメント]記憶が存在するのは、脳のなかに内包された小宇宙であるという想定で、そこは暗闇の空間になっているようだ。この暗闇に記憶が断片的に点在しているが、そのもっと奥の方に一縷の光が見えているのが象徴的であるように思えた。空間的な奥行きを感じさせると同時に、何かの暗喩であるのか奥深い解釈を示唆しているようで、味わい深い作品になっている。
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