入試問題集2024|多摩美術大学
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私は幼いころ本を読んだり、絵を描いたりすることが好きだった。人と話すことが苦手で内気な性格だった私は、本を読むことで自分ではない何者かになった様子を想像し、絵を描くことで理想の自分を表現し逃げ道を作っていた。幼いころの私にとって、芸術は現実逃避のための手段でしかなかったのである。ただの手段であった芸術が私のなかでなくてはならない存在となったのは、中学三年生のときにある芸術家を知ったことがきっかけだった。その芸術家の名はフリーダ・カーロである。痛ましい事故があっても強く在り続ける彼女の生き方とは対照的に、彼女の作品は弱さや悲しみが表現されているものが多かった。現実逃避の手段としての芸術ではなく、己と向き合い強く生きていくための芸術を知り、さらに芸術や本当の自分と向き合いたいと思うようになった。私は好奇心の強い人間であり、目に付いた興味深いものについて調べつくしたいと考える人間だ。私はその好奇心の強さから色々なことを試してきた。一例として、私は小学校六年生の時に彼岸花を煮つめて食した経験がある。毒かどうかも全く調べずにそれを食し、彼岸花は大変苦いということと毒性があり腹を下すことを知った。苦い経験であったが、私はあの美しい彼岸花の味を知ることができて、喜びを感じた。私が芸術に興味を示したのも、その好奇心からだ。中学生の頃に初めて美術館に行き様々な絵を見て、この絵はどんな気持ちで描かれたのか、どんな意図を持ってモチーフを見ていたのかがとても気になった。絵を描く人のことを知りたくて私は美術の道に進むことを決めたのだ。 「私」の全ては好奇心でできている。    81[教員コメント]「私は好奇心でできている」という印象的なフレーズを繰り返し用いているのが効果的です。その好奇心がいかに尋常の範疇から外れているかを論証し、絵を描く人の意図を知りたいという点に説得力があります。美術にその強い好奇心を向けたいという意欲に、入学後の成長が期待できます。[教員コメント]読書によって、あるいは絵を描くことによって夢想の世界に浸り、芸術を現実逃避の手段としていた「私」が、痛ましいバス事故の後遺症で苦しみながら制作を続けたフリーダ・カーロの作品と出会うことで、芸術を通して「ほんとうの私」と向き合いたいと、今後の学生生活に向けたマニフェストとなっています。問題1 | 芸術に触れながら、350字以内で「私」について述べなさい。小論文

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