入試問題集2024|多摩美術大学
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 今日、目の前に置いてあったのは、毛糸と棒とビニール袋だった。暖かい白色の毛糸は、秩序よく絡み合い、その一方は右側に伸びていく。棒は毛糸に寄りかかっていて、また伸びてきた糸にやさしく囲まれた。昨日は寒い雪の日であった。目の前のこの組み合わせはまた私に昨日の景色を思い出させた。 暖かい布団の中で窓の外で雪が降るのを眺めて、何もかもが白い雪に覆われていた。 ビニール袋は毛糸の下に敷いてあって、淡い影が映された。起伏によって出来た反射光には優雅な動きがあり、柔らかくきらめいている。袋の中に隠れた一本の毛糸がある。しかし袋は透明で、その糸の形ははっきり見えてしまい、外側の糸の影のようにも見える。そう思いながら見つめると、ビニール袋のきらめきに目がまぶしく感じる。 そして目線をまた毛糸の方に移した。「なんか甘そう」と、ふいに思った。お腹がすいてきたせいかもしれない。ふわっとした毛糸は、どんどん綿飴のように見えた。そのそばに寄り添った棒も、スプーンと似てきた。下に敷いたのはビニール袋ではなく、料理用のアルミホイルではないか…そういうふうに、妄想が始まっていった。 だが、三つのモチーフは依然として机の上に置いてある。さっきまでの妄想に何も影響されていないようだ。相変らずふわっとした毛糸と金属の棒で、下のビニール袋も微動だにしなかった。 机上には三種類のモチーフが置かれている。かぎ針、こぶし二つ分ほどの毛糸玉、ジップロックだ。毛糸玉はジップロックから半分出るような形で置かれており、糸が一本ほどけている。ジップロックのチャック部分は毛糸に合わせて閉まっており、全体は二つに折り畳まれている。その下に置かれたかぎ針はジップロックで一部隠れている。 画面を一目見て、まず初めに目に入ってくるのはかぎ針だ。かぎ針は他の二つと比べて光を強く反射する素材のため、最も暗いりょう線と、最も明るいハイライトの差が大きい。そして、一番手前に出ていることで更に印象が強くなっている。細くまっすぐなハイライトからはその硬さが、床に濃く落ちる影からは重みが感じられる。 しかし、三つのモチーフが関わり合ったとき、最も影響力が強いのはジップロックだ。ジップロックとその他のモチーフが重なる部分を見てみると、その中や下に入る物は輪かくが大きくぼやけることがわかる。毛糸は糸の重なりが少しうかがえる程度で、最も色が強いはずのかぎ針でさえ、その特徴はほぼ無くなっている。かぎ針に絡む一本の毛糸もジップロックの下では存在感を失っている。 このように、単体だと非常に目立って見えるかぎ針よりも、複数のモチーフと関わることで発見できるジップロックの影響力を感じた。83[教員コメント]モチーフの構成はシンプルで、自然体に見えるものの、毛糸の塊を少し左に寄せ、その分編み■棒と毛糸の先を右前方に遊ばせ、ジップロック下に潜らせ、さらに左右の画面の端を切り取るなど、視線を巧みに誘導する構成と描写になっています。また、鉛筆デッサンと文章との相関性をみることができます。[教員コメント]与えられたモチーフ三つのそれぞれの特徴、それらが重なり関わりあうことで生じる表情や変化を描きわけようとする意欲が、素材の構成や鉛筆デッサンから読み取れます。文章においても、ハイライトや陰影から物質の硬さや重みを発見し、その微細なうつろいの記述が巧みです。鉛筆デッサン[言葉によるデッサンを含む]

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