記憶の断片

ホウ カラク

作者によるコメント

私は物を見た時、瞬きをするのは一瞬だが、実際にその瞬きの過程を無数の時間帯に分けることが出来る。幼少期から現在まで、中国から日本まで、そして昨日から今日まで、それぞれの時間帯の体験がもたらした記憶の混乱と非現実感は、ある日のある瞬間に記憶の断片を脳裏に浮かび上がらせる。そして、人間は全てを記憶することは不可能であって、ある日のある瞬間だけ頭の中で思い出す。それらを私は、頭の中にある記憶と、見た写真の一部を組み合わせて、その時の写真を作品として残している。また、私は物を見るときに目のピントが合わない状態から合う状態の過程、つまり、その不安定から安定するまでの瞬間もいくつかのフレームに分けて作品として表現している。これらの作品は瞬間の過程と頭の中の記憶を組み合わせることで曖昧な記憶の断片を捉えている。

担当教員によるコメント

ホウ・カラクの作品は、或る風景を解体し、断片化したイメージを複数のレイヤーに分けて再構成する。実際の作品では、アクリル板に網点でシルクスクリーン印刷され、箱状の空間にそれらが閉じ込められる。さらには網点の重なりによるモアレ現象が生じ、鑑賞者が動くにつれて、その網点の重なる角度の異なりにより、現象は変化し続け、まさに映像化されていくかのようだ。静から動に変化することの不思議さ!作品においては、本来の意味を失った風景の断片が、それでも部分的な意味を帯びながら、他の断片のつながりを求めて交錯していき、その状態が透明の箱状の空間の中で映像のように浮かび上がってくることになるのだ。ここにおいても版画表現の新しい可能性の1つが見えてくる。

教授・大島 成己

  • 作品名
    記憶の断片
  • 作家名
    ホウ カラク
  • 作品情報
    技法・素材:シルクスクリーン
    サイズ:各H910×W610×D310mm
  • 学科・専攻・コース