夢のような

田中 亜美

作者によるコメント

眠るときにみる夢の中では、自分ではないような行動をしたり、不思議なことが起こったり、絵空事のような世界が広がっている。知らないうちに抑えていた無意識の心理状態が表れていて、もしかすると現実よりもずっと、ありのままの自分を映しているのかもしれない。今まで体験したいくつものイメージの欠片が絡まり合い、自分自身のみ感じることのできるもうひとつの世界なのではないだろうか。
そんな儚く淡い夢をテキスタイルにできたらと思い、曖昧で滲んだ模様の布を制作した。夢の中の自分と現実の自分との乖離、そのぼんやりとした矛盾を、『夢という体験の感覚』の視覚化を通じて表現すること目指した。

担当教員によるコメント

水色を基調とした静謐さを感じる3点のテキスタイルプリントは「夢のような」という題名が示すように、ぼんやりとしてうたかたな眠りの状態が表現されている。それは目を閉じて光のある方を見た時に瞼の内側に映る瞬きを描いたようにも見えるが、実際は染料あるいは絵具の滲みや擦れまたは飛び散った痕跡など偶発的にうまれたかたちをモチーフとしているのである。色が染着していくとも晒されて消えていくとも捉えることができる滲みの表現を深い眠りに落ちるとも夢から目覚めるともいえない曖昧な感覚に結びつけたことは作品をさらに魅力的にしている。見る人の多くが記憶する夢の体験を呼び起こし、酔いしれることをゆるす優れた作品が出来上がったのではないだろうか。

教授・柏木 弘