ズレながらたどる

神谷 絢栄

担当教員によるコメント

展示空間に置かれた神谷さん制作の机とその周囲に置かれた数脚の椅子。この椅子には頭部や腕を連想させる構造が加わり、一脚一脚が一人ひとりの人間のような不思議な存在感を発している。そこに朗読の声。椅子に置かれた日記の一部が朗読されている。戦時中、兵士として戦うことはなかった銃後の人々が書いた日記である。その淡々とした日々の情景とこの日記が書かれた戦時下という状況の大きなズレに気づくとき、私たちは大きな驚きとともに、この作品を通して想像する。それは逃れることが出来ない力への怖れでもあり、時に穏やかな日々のことでもある。時代や場を越えてなお人々が抱えてきたものに、真に向き合わせる静謐な力がこの作品にはある。まさに神谷さんが探りつづけてきた、自身のリアリティと表現が合致した瞬間であり、ここに私は深く感動する。

教授・日高 理恵子