Enter the qualia
伊藤 みさこ
担当教員によるコメント
白いテントの中には、モニターと椅子が配置されている。周りから聞こえてくるのは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、人格をもった五感それぞれが、ひとつの体験について話しあっている会話だ。この空間は脳の中で相互補完によって成立するクオリア ― 知覚 を発話で表そうとする劇場だ。五感はそれぞれ独自の感覚で知り得た事柄について語るが、だれも結論を結べない。人間の脳という知覚のアリーナ(劇場)の中で、モニターに写る対象を見ている鑑賞者は、ホモンクルス(脳内のこびと)となって、感覚同士の会話を手がかりにひとつの感覚へとつなぎ合わせる存在となる。会話劇で用いられる言葉や会話は、どれも曖昧で、自己的な表現が選ばれている。その懐疑的で、結論をもてない印象によって、我々は世界を個人のものとしている。それを人間のイマジネーションを喚起させる壮大な曖昧さといってもいい。クオリア ― 知覚 の大伽藍を体験可能な空間として提示するこのサウンドインスタレーション作品は、知覚や、五感とはどのようなものなのか、データ化などできない、主観的感性の不思議さと巧妙さを体験させてくれる。クオリアが抱えるパラドックス、その奥ゆかしさについて、この作品は語る。
教授・佐々木 成明
- 作品名Enter the qualia
- 作家名伊藤 みさこ
- 作品情報サウンドインスタレーション
技法・素材:木材、布、スピーカー、オーディオインターフェース、モニター 、Premiere Pro
サイズ:H2700×W4600×D4500mm - 学科・専攻・コース
- カテゴリー