『音楽』2023年度卒業制作演劇公演

作者によるコメント

『音楽』には人類の音楽史における原風景のようなものが描かれています。かつて江戸アケミが「リズムに解放される時ってあるじゃん。一瞬だけどさ。その一瞬をつかまえたいんだよ。」という言葉を残したように、私たちはあらゆる時間と空間の中に、二度と現れることのないただ一点をめがけて飛び込んで行くのかもしれません。そもそも「漫画」という恒久的にアーカイブされ続けるメディアの中で、「初期衝動」という「一瞬の体験」を真正面から扱った原作者の大橋裕之さんはとんでもなくスゴイ。だからこそ私は、かつて掌の上で迸った衝動を、今度は全身に駆け巡るようなものにしたかったのです。海の向こうのブルースを聴いた少年たちがローリング・ストーンズになったように、演劇という「一瞬の体験」もまた、私たちを突き動かす力を持っているのだと思います。

西﨑 達磨(作・演出)

担当教員によるコメント

素晴らしい卒業公演でした。俳優ひとり1人が輝き、若いパワーに圧倒されました。その裏では舞台監督をはじめ各セクションスタッフが俳優を支えていたからです。演舞コースと劇美コースが、初日まで紆余曲折あったとは思いますが、互いの目指していた方向が良い意味での相乗効果を発揮できた結果ではないでしょうか。
三方囲いフラットステージに挑戦して、作品の世界観を空間全体で表現をして、だれひとり欠けることなく、最後までひとり1人の役割を、責任を持って遂行した舞台美術ゼミ第7期生を誇りに思います。 この卒業公演が皆さんのゴールではなく、これから未知の世界に羽ばたくスタートだと考えていただき、今後の活躍を期待致します。

教授・金井 勇一郎

『音楽』!超ゴキゲンなエンゲキが誕生!多摩美には原石が集まってくる。その確信が勢いづいた。
企画・劇作・演出の西﨑達磨の才能には目を見張るものがある。しなやかな芸術論と批評力が満載だ。
クンのセリフ「だからこそいいんだよ。磨かれたテクニックや鍛え上げられた肉体は運命論的だ。僕らはキッチュで偶然的な存在だろ。だからこそいいんだよ。ラジオの混信で海の向こうのブルースを聴いた少年たちはローリングストーンズになったんだ。だからこそいいんだよ!全てのロックンロールの代理人になれ!」にはやられた。クンは叫ぶ「ロックスター!」と。
エンゲキは、今を映し出す。「ロックスター!」が人類には必要なのさ。

教授・加納 豊美

既に出版されている漫画の原作利用、プロのバンドによる生演奏等、新たな、具体的な試みが多くある作品でした。演出家はそんなプロや大人の力を、明確なビジョンと柔軟な包容力でコントロールしていました。俳優たちのエネルギー溢れる演技により発せられる、心に残る台詞がいくつもありました。
スタッフワークも、効果的でありながら出しゃばらず、出しゃばらないけど引っ込み思案じゃない、素晴らしいバランスでした。
物理的に難易度の高い要素の多い作品でしたが、最後までカンパニー全体が、お洒落にしなやかに、自分たちらしく進むという意思を持ち、貫いていました。

准教授・糸井 幸之介

本公演は、漫画を原作としながら、「なぜ演劇なのか」という問いに真摯に向き合い続け、表現にまつわる音楽劇として見事に成功した作品でした。バンド演奏が全編を包み込むことで、独特の熱を常に内包し、終盤では劇場をフェス会場へと変貌させました。美術、衣裳、照明は互いに絡み合い、作品の世界観を深める一方で、俳優たちにはそれぞれ見せ場が設けられ、彼らはそのチャンスを見事に活かす。集団芸術である演劇の強みがいかんなく発揮される様は実に爽快。表現への問いかけと作品の立ち位置を明確にする態度が際立ち、未来へ向かう学生たちの決意表明のように輝く、ある意味で卒業公演でしか成し遂げられない作品であったと高く評価します。

准教授・柴 幸男

原作漫画の雰囲気を尊重しながら、韻を踏むといった言葉遊びを取り入れたセリフを散りばめ、演劇作品としての存在価値を提示した秀作でした。楽器演奏については、出演者の中の数名の演奏ができる学生が、楽器未経験の仲間に教えていったとのことです。舞台美術は2階建ての移動できるセットが1組あって高低差を持って俳優が立てるようになっており、校舎のシーンがリアルに表現できるだけでなく、空間の異なるシーンを2階で繰り広げて挟むなど、演出の幅が大きく広がっていました。照明は高校生の日常生活とロックフェス本番をメリハリをつけてよく表現していましたし、衣裳も「高校生の制服」という画一性を裏切った、キャラクターをよく具現化したものでした。

講師・大平 智己

舞台はコミュニケーションの芸術でもある。それが足りなければ、たとえいい企画であっても希薄な出来になってしまう。60名ほどの、しかも学生が、自分を開いて密に繋がり合うのは難しく、ともすると他人事になりやすい。 今作は、モチベーションや方向性の違う60名が稽古や話し合いを重ねてお互いへのリスペクトを築きながら、一つのビジョンを持つことに成功していたと思う。その過程が登場人物たちの姿に重なる。学生たちが同じ熱量で「自分の作品」として誇りを持って上演しているのが伝わった。加えて、原作や音楽など学外の方々を座組に巻き込む、企画発案・脚本・演出の西﨑達磨さんの粘り強さ、度量の大きさに感心しきりだった。 話し合いを重ね、それぞれがそれぞれでありながら一つのビジョンを提示する。今世界で一番必要なことを見せてくれる舞台だった。

講師・野上 絹代

作品動画

ダイジェスト (12分)

本編 (105分)

作品情報

期間:2024年1月13日(土)、14日(日)
会場:東京芸術劇場シアターイースト

作・演出:西﨑達磨
原作:『音楽 完全版』大橋裕之(カンゼン刊)

キャスト

浅川 総一郎、泉 虎太朗、伊田 優月、板倉 嵩介、今井 桃子、大木 友奈、奥村 梨央、小畑 璃門、柿沼 美保、狩野 瑞樹、神澤 留菜、栗田 裕賀、黒澤 陽、坂入 美早、佐藤 理奈、柴生田 七海、徐 永行、白鳥 七大、白鳥 真生、鈴木 一、髙柳 咲葵、田邊 杏里、長江 湖春、成瀬 双葉、新沼 希未、西川 真央、西川 真黄、平野 百音、廣野 竣祐、藤井 哉大、松井 絵里、松田 萌、三浦 春乃、村木 桃子、八木 羽衣、柳井 萌花、李 安淇、若菜 咲穂、魏 栄成(研究生)

スタッフ

作・演出:西﨑 達磨
舞台美術デザイン:宮川 俊正
衣裳デザイン:島﨑 光凜 本郷 真衣
照明デザイン:阿部 柚葉

ゲストバンド:カブトムシ

演出助手:久保田 琉奈

舞台監督:中村 加奈、松林 京子

大道具:石川 芽生、大瀧 哲、コウ ガテイ、ショウ コウテン、チン スイ、伏見 和音、古林 夏清、宮川 俊正、横井 真帆
小道具:神田 夕莉、新村 明佳

照明:阿部 柚葉
照明操作:株式会社 オールライトアソシエイト(柏倉 淳一)

衣裳:春日井 詩乃、河内 沙綺乃、島﨑 光凜、平林 也依、本郷 真衣、水谷 紗耶

映像:西﨑 達磨
映像協力:株式会社カタリズム(松澤 延拓、堀田 創、松尾 佑一郎、中澤 裕季)

音楽:白鳥 真生、西﨑 達磨
劇伴・演奏:カブトムシ
音響:鈴木 はじめ 
PA : 鏑木 知宏
音響スタッフ:若林 なつみ

イラスト:大橋 裕之

宣伝美術:松井 寛太(グラフィックデザイン学科3年)
パンフレットデザイン:有本 玲生(統合デザイン学科4年)
記録(写真):白井 晴幸
記録(動画):広田 智大

劇中歌作詞:今井 桃子「ばんからばくち」
狩野 瑞樹「君の横顔」
西﨑 達磨「コミック雑誌のゴスペル」「路上ライブのラップ」

制作:柿沼 美保、柴生田 七海、白鳥 七大、鈴木 一、髙柳 咲葵、西川 真央、藤井 哉大、宮川 俊正、若菜 咲穂

アドヴァイザー

美術:金井 勇一郎 
大道具製作:阿部 宗徳、岡田 透、杉山 貴博
舞台監督:佐藤 恵
照明:大平 智己、藤巻 聰
衣裳:加納 豊美
衣裳製作:三浦 洋子、石橋 舞
上演:糸井 幸之介、柴 幸男、野上 絹代、大石 将弘、岡本 陽介、西田 夏奈子
宣伝美術:則武 弥
制作:坂本 もも
授業担当助手:松田 真季

演劇舞踊デザイン学科の卒業制作について

演劇舞踊デザイン学科は、感性豊かな身体の表現者、創意豊かな空間を演出するデザイナー、劇作家、演出家等の育成を目的とした学科です。それらの専門性から演劇舞踊コースと、劇場美術デザインコースを設けカリキュラムを展開しています。 卒業制作は、学びの集大成として、両コースのコラボレーション作品を企画し公演を行なっています。