未来を見ていて

箭野 結子

作者によるコメント

 幼い頃、桜の花が咲く頃。祖母と落ちてくる花弁をつかまえる遊びをしました。父に公園の大きな木に登らせてもらい、間近に花を見ました。母とお弁当を作って、花見をしながら食べました。
 高校になった春、入院した祖母に私は桜の絵を贈りました。彼女は私との想い出を懐かしんで、それから昔の家族の話をして涙を流しました。数日後、彼女は他界しました。
 春、桜の樹の下へ行くと私は思い出します。
 桜の樹よ、この先も私たちの未来を見ていてください。

担当教員によるコメント

一筆これ以上でもなく、一筆これ以下でもなく、モチーフのすべての加減が此処で完結している。それはまるで読み入る長編小説のような、儚くも心に残る短編小説のような、そんな美しい一節に出逢えた充足感に満ち溢れる作品に巡り会えました。桜の一生を通して箭野さんが感じた人間としての機微や記憶、証さえも端的に描く。これほどの力量を持って、これから箭野さんに立ちはだかるかもしれない困難さえも、美しい気配に置き換えてしまうのであろう。余分なく不足分なく物静かに本当に美しい一節を描ける箭野さんに、私の言葉や世の中の評価など雑音になってしまう。 「貴方ならなんでも出来るよ!!」と囁いておこう。

教授・千々岩 修