Tough paper basket

井上 晃太郎

作者によるコメント

江戸時代に擬革紙という素材があった。
それは、繊維の長い楮で漉いた和紙に、こんにゃく糊や柿渋を加えて揉み込むことで、革のような風合いと丈夫さを備えた素材だ。
今ある資源を「どう使うか」が敏感に問われるこの時代に、擬革紙のプロセスを再構築することで、使い捨てや代替品に留まらない素材とそのあり方を探った。
立体に漉いた和紙に擬革紙の加工を施すことで、ファブリックのような柔軟性と、裁縫が不要な造形の自由さを併せ持つ。本来和紙漉きは、原料と水を入れた漉き船の中で、簀桁を縦横に動かして繊維を複雑に絡ませる。これを現地で学び、立体で再現する技法を研究した。
この作品の約 3mm の厚みは、薄い紙の張り重ねではなく、3 次元的に繊維が絡み合った分厚い一枚であり、その肉厚感と弾力は、楮に紙以上の素材の可能性を予感させた。

担当教員によるコメント

井上晃太郎さんが研究に取り組んだ疑革紙という技術は、元々日本に食肉の習慣がなかった時代に開発された革の代用としての技術である。この技術に興味を抱いた井上さんは紙の産地に出向いて、技術を継承している職人さんに直接教えてもらうフィールドワークを行っている。疑革紙は1枚のシートとして漉いた状態だと厚みのある和紙という印象が残るが、井上さんは紙漉きの技法から探究し、紙漉きを3Dの器状に漉いて成型する技術を工夫しながら作成した。モノの素材感を人はエッジ(端)の表情から読み取る傾向があるが、器状に一体型で成型する技術を用いると、疑革紙のエッジが提示する和紙の印象を極力抑えることができる。この提案はそうした工夫と学びの積極性から生まれ出ている。

教授・濱田 芳治