「蘭字看板」

佐藤 萌香

作者によるコメント

蘭字とは明治時代から昭和初期にかけて、日本から海外へ輸出する茶箱に貼られていたラベルの名称です。浮世絵職人が外国商館から発注を受けて制作していました。現代のクライアントとデザイン制作現場のようなやり取りが150年前から行われていたのです。そこで、歴史において重要な存在であるはずなのになぜ蘭字は知られていないのだろう?と疑問を持ちました。
輸出用の為日本人が目にする機会が少なかったから、取引情報の漏えいを防ぐために隠されていたから等、さまざまな理由が考えられますが、一番の要因はラベルという消費財だったからではないでしょうか。
この作品は「蘭字」を看板として現代に甦らせる取り組みです。
また、より深く蘭字について知ってもらうため、歴史や制作プロセスをまとめたリーフレットを配布しました。

担当教員によるコメント

「蘭字」その独特な欧文のタイポグラフィーと図柄、そして木版画による色彩は、たしかに魅力的だった。作者の佐藤萌香はそれを現代に蘇らせようと試行錯誤を重ねる。和文文字を加工して蘭字的なニュアンスに挑戦したり、木版印刷にもトライした。しかし、なかなか思うようにいかない。ある時、ローマ字として英文を使うアイデアを思いつき、印刷もUVプリンタを使うなど、現代の技術を効果的に使う方向にシフトする。それは佐藤が膨大な試行錯誤を行ったからこそ生まれた解決方法だった。最終的には蘭字が使用されていた場所に行き、そこで撮影した写真に自身の「蘭字」を合わせるという表現方法で作品を定着させた。その展示は、佐藤が感じた「蘭字」の魅力を見る者に十分に伝えるものとなった。

教授・宮崎 光弘