J・ペンシのアームチェア「トレド」
Jorge Pensi
1988
042 フランコ独裁体制は、スペインの進歩的芸術思想、自由主義経済・政治、健全なデザイン産業の発展を妨げていた。社会的不満は蔓延していたが、圧政は1975年フランコが亡くなるまで続いた。1978年以降のスペインは、1930年代以来抑圧されてきた自由な表現手段が一気に開花した時期でもあった。  一部のデザイナーは転向者と言われながらも非公式に少量生産の家具やスペースなどをデザインし、これらはいまだにスペイン人に人気がある。これとは別にオスカー・トゥスケッツ・ヴランカやホルヘ・ペンシ(1946〜)といった建築家たちは、公的な産業レベルのデザイン活動に従事した。母国語が同じスペイン語ということもあり、ペンシと友人アルベルト・リエボレらは政治的な圧力の強いブエノスアイレスから進歩的なバルセロナに移住してきたのである。  こうして、スペイン政府から無視されてきたデザイン産業はにわかに活気づき、1980年代には国家的財産とみなされるようになった。  ペンシが、闘牛を連想させる都市名からとって「トレド」と名付けたアームチェアは、当時の象徴的な作品である。  デザイン家具はその後、量産が可能となり、海外にも輸出される。アメリカのノール社でも生産された「トレド」は、スペインのアルミ成型家具の発展に貢献し、屋外用家具という言葉の定義を変えさせた作品である。


【 素材】 成型アルミニウム

100 DESIGNS 100 YEARS
20世紀を創ったモノたち
メル・バイヤーズ/アーレット・B・デスボンド
森屋 利夫/成澤 恒人
2000.05.05
株式会社アクシス