Shiro TAKAHASHI
「審査に関する感想・評価」
作品に込められたメッセージは、優れた造形力と相まって始めて、人の心を動かす説得力を発揮することとなります。私の審査方法は、作者のメッセージを評価し、その内容が如何に豊かに造形されているかに重点をおきました。
今日の興味ある社会テーマを扱った作品でも、造形力との相関で入賞にいたらなかった作品がありました。また、2点1組の作品は、規定上1点の作品として評価せざるをえません。アラビア語などの解読を充分にできなかったのは、私の知識不足です。
版画表現の技法は、古くから、作家が独自の開発をつづけ、今日では、デジタル技法にまで及んでいますが、入賞に至るCG作品が無かったことは残念です。その点、エストニアのEELMAさんの“MOMENT”は、新しい版画技法の展開に意欲的で評価できます。
カナダのJULEさんの“EXCURSION”は、重力や張力といった、目に見えない力をモチーフにしています。人類が空気や重力などを正確に発見したのは、近代の科学時代になってからの事ですが、日常的に絶対的な影響受けながら、通常の生活では全く意識される事の無い空気や重力は、宇宙時代の人間性にとってこそ、再認識されるテーマであると思います。
大賞作品となった、スロバキアのVAVROVAさんの“200 YEARS A.BORN H.CH. ANDERSEN I”は、東洋的な風景や人物で、文学的な画面を豊に造形しています。デンマークの童話作家が語る、トルコの幻想を、両国の中間に位置するスロバキアの版画家が表現し、極東の日本で開催する展覧会に出品するという点が、今回の大賞作品にふさわしい、東西交流の表現であると思います。
日本のSANPEIさんの“TAMAYURA 205”は、いかにも手慣れた、版画独特の優れた作品ですが、準大賞にとどまったのは、版画の審査に不慣れな私の投票が影響したのかもしれません。
このように、世界各地からの多くの作品を鑑賞できましたこの審査会は、私にとって大変に楽しい体験でした。ありがとうございます。