文様研究アーカイヴス

日光東照宮建造物装飾文様調査報告Ⅰ

『文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1』

 『文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1』(昭和49年(1974年)5月1日発行)は、昭和47年(1972年)10月30日より11月2日までの4日間に多摩美術大学文様研究所が行なった「第1次日光東照宮建造物装飾文様採集調査」の調査結果を報告書としてまとめたものです。

 佐々木静一、田澤年美、大淵武美、檜垣檀、松尾信子、高浜謹子、金子美津子(教授3名、助手4名)、さらに学生6名を加えた計13名によって行われた組織的フィールドワークで、1.経蔵、本地堂(修複工事中)の文様採集、2.装飾金具類よりの文様採集、3.具象文様の採集、4.唐草文様の採集という定められた4つの調査が各班により行われました。

 当報告書には「日光東照官に見る文様について」田澤年美、「陽明門金剛柵の頭部および寄進燈籠について」佐々木静、「日光東照宮建造物装飾文様採集調査に伴なう若干の考察」大淵武美、「文様・様式・および技術の問題点」高浜謹子が掲載されています。

『文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1』 PDF(51MB)→

文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1 文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1 文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1 文様研究報告書Ⅰ 日光東照宮建造物装飾文様調査報告1

*PDFより抜粋

日光東照宮建造物装飾文様調査報告 I 概要の紹介(報告書から抜粋)

・目次

  • 日光東照宮建造物装飾文様採集調査について|大淵 武美 ……07
  • 日光東照官に見る文様について|田澤 年美 ……09
  • 陽明門金剛柵の頭部および寄進燈籠について|佐々木 静 ……34
  • 日光東照宮建造物装飾文様採集調査に伴なう若干の考察|大淵 武美 ……41
  • 文様・様式・および技術の問題点 |高浜 謹子 ……57
  • 「神厩」および「水盤合」の鋳金具の文様について|松尾 信子/金子 美津子 ……67
  • 回絵・建造物配置図 陽明門 (正面) 陽明門の金剛柵 唐門と透塀
  • 中神庫の暮股と斗供 水盤合 神厩 ……1~4

・日光東照官建造物装飾文様採集調査について

 本報告書は多摩美術大学文様研究室が、昭和47年10月30日より11月2日までの4日間に行なった「第1次日光東照官。建造物装飾文様採集調査」によってえられた文様とこれにともなう若干の見解をまとめたものである。 この文様採集調査は文様研究室第1回目の試みであると同時に、学生の演習も兼ねていたなどの点から、文様採集の主眼を、東照宮において多用されていると考えられる装飾文様の採集に限定し、その採集方法を写真撮影のみ(一部拓本採集)とした点で。まだ多くの疑間点を残している。また当然のことながら調査対象が信仰の対象である霊廟建築である点から、写真撮影が不可能である場所も多く、今回の短時日の調査ではその一部を採集し得たにすぎず、結論を今後の調査にまたねばならぬことはいうまでもない。

 したがって今回の報告では、われわれが4日間に採集し得た装飾文様の分布状況とこれにともなう2~3の見解を発表するにとどめたい。

 ところで、われわれがその研究日標とする「文様の発生および展開に関する総合研究」というテーマの第1次文様採集調査に、何故日光東照宮を選んだのか、いささか奇異の観をまぬがれないと考えられるので、簡単にご説明しておく必要があるであろう。

 研究室員中に建築史専攻の研究者ただ1名という人員編成でありながら、われわれが日光東照官の文様彩色を主調査対象とする文様採集調査を行なったのは概略次のような点からであった。

 第1に日光東照官の建造物が桃山期より江戸中期にかけて完成された建築様式の典型でありかつ最大規模のものである点から、同時期の寺社建造物に施された装飾文様のすべてがここに集められていると考えられる。

 第2に徳川幕府の開祖である家康をまつるための霊廟であるので、当代一流の建築家、工匠、絵師などが総動員されている点と、定期的な修複工事により保存が完全になされている点から当時の技術水準をみることも可能であると考えれらる。

 第3にブルノ・タウトの東照宮評価以来.俗悪の見本の如くにいわれるこの建造物も、装飾文様という角度から視るならば、建造物装飾文様の豊庫であり、表現技術および文様々式の貴重な記録であると考えられる。

 第4にわれわれの文様研究が従来、各専門分野で行なわれてきた文様研究と少々性格を異にし、およそ文様に関する限り考古学、美術史、染織史、工芸史、建築史、デザインといった諸分野を統合し、総合的に研究を進めることを方針としている関係上、資料があれば、または入手できれば比較的文様採集の容易な、染織品、工芸品と異なり、I文様採集がたとえ写真撮影だけであっても.容易ではない遺跡、建造物からの文様採集の実習を行なう意味で、この時期陽明門をはじめ経蔵、鼓楼等の修復工事中であった日光東照官は、比較的文様採集が行ないやすいと考えられた。

 第5に桃山期から江戸期にかけての建築装飾および文様を収集する対象として、その最も適した性格を日光東照宮に求めるのは多少の無理があるとしても、地理的条件などからも、演習を兼ねた採集調査には日光東照宮が最も適していると考えられた。

 その他研究室員個々にそれぞれの理由がぁったが、概略以上の理由から日光東照官建造物からの文様採集を行なうこととなったわけである。

 無論、前述した通りわれわれの今回の調査の目的は、かならずしも日光東照官の装飾文様の研究にあるのではなく、桃山期より江戸期の寺社建造物にもちいられた装飾文様の代表例を日光東照官にもとめ、他の分野、つまり染職品、工芸品、陶器などに表れた文様との比較検討を行なうための資料収集がその主眼であるので、今後の調査もまたこうした視点から継続していく予定であることをおことわりしておきたい。

 本調査にあたっては日光東照宮、二荒山神社、輪王寺をはじめ、日光三社一寺文化財保存会の皆様、文化庁建造物課主任技官杢正夫氏、特に修複工事中の多忙な時間をわれわれのためにさいてくださった保存会の吉原昭夫技官。そのた多くの方々のご協力を頂いた。報告書作成にあたって改めて深く感謝の意を表させて頂きたい。

昭和48年11月大淵武美

日光東照宮建造物装飾文様採集調査

1|日時

昭和47年10月30日より11月2日まで(4日間)

2|参加人員

佐々木静一、田澤年美、大淵武美、檜垣檀、松尾信子、高浜謹子、金子美津子(教授3助手4)、他学生6名以上13名

3|班編成

  • 1. 経蔵、本地堂(修複工事中)の文様採集
  • 2. 装飾金具類よりの文様採集
  • 3. 具象文様の採集
  • 4. 唐草文様の採集

以上4班編成により現物撮影による文様採集を行なった。

4|主たる文様採集個所 

表門、神厩、下神庫、中神庫、上神庫、水盤舎、鼓楼、鐘楼、陽明門、同回廊、神楽殿、神輿舎、唐門、本地堂外側。経蔵(外部、内部)石灯籠、銅灯籠、他

5|日程

  • 第1日 —— 東京発 8:00 日光東照宮 12:00
    二社一寺文化財保存会の技官同道文様採集個所の下見兼東照宮全域の見学
  • 第2日 —— 班別文様採集(撮影)開始午前、午後前夜着の学生4名は全域の見学と下見
  • 第3日 —— 今市発 8:00 日光 9:00 班別文様採集(午前中)
    午後彩色関係の吉原技官の講義を受講のため、佐々木、大淵をのぞく全員は撮影を中止。
  • 第4日 —— 今市発 8:30 日光9:30
    午前中宝物館の見学および撮影午後班別撮影16時調査終了
    日光発 5:20 東京8:00

・使用カメラ

  • 35m 12台
  • 6×6 2台

・使用フィルム

  • 白黒35m 25本
  • 白黒35m SS20本
  • カラー35m 25本
  • カラー35m 10本
  • 白黒 6×6 5本
  • カラー 6×6 7本
  • カラー 6×6
  • フジ 10本
  • ストロボ 5台
  • 三脚 8本

以上が調査日程の概略である。
(当報告書より)